「入社したら3年は働け」の真意とは
新卒入社をした会社で何年働くか。多くの人が一度は考えたことではないだろうか。こんなところ辞めてやる!ということもあれば、居心地は良いがこのままで大丈夫だろうか、という将来への不安からということもあろう。離職を防ぎたい企業側はライフワークバランスを考え、上司は部下を怒らず、新人の意見も聞くようにする。しかし新人はそんな職場環境で自分は成長出来るだろうかと心配になり転職を考えるというのだから皮肉なものだ。
弊社は採用の調査会社(バックグラウンドチェックの会社)である。探偵業の届け出も出しており、尾行、張り込みなども行うがやはり主戦場は「採用」市場だ。毎日膨大な履歴書と対面する。大げさではなく履歴書に埋もれている。そのため、昨年鬼籍に入った創業者などは履歴書一枚みただけで大体の人物像はわかったという。
今年も厚生労働省が新卒入社の離職率を公表している。
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00004.html
事業所規模ごとに離職率に違いがあるようだが、平均すると大学卒での就職者の3年以内離職率は31.2%。直近30年のデータを見ると、バブル崩壊の翌年、1992年が23.7%と最も離職率が低く、逆に最も高いのは2004年の36.6%。年によって若干の差はあれ、大体3割程度を推移している。そして入社後3年の離職率データが30年にわたって取り続けられているように、毎年この話題は手を変え品を変え出てくる。それはおそらく「今の世代」を語るに分かりやすい指標であるからだと思う。団塊ジュニア世代だから転職が当たり前の競争社会、ゆとり世代だから我慢がきかない、さとり世代だからそもそも働くことへの執着がない・・・などなど。世代を象徴する出来事であるかのように感じていたが、ただ実際見てみるとこれほど大きな変化があった(と感じる)近年30年の間ですら、「3年後の離職率3割」は変わっていない。それを考えると、世代と入社3年後の離職率とはイメージするほど関連性はないのだろう。
弊社に持ち込まれる履歴書は多くは中途採用のもの。初めての転職という人もいれば、履歴書に書ききれないほど転職を繰り返している人もいる。転職回数が多い程、就職には不利かと思いきや、それは次の入社先の社風や求める人材によるため一概には言えない。そしてこの年代の人は調査依頼(要は転職者)が多くて、この年代は少ないというのも実はあまりない。これだけ膨大な履歴書に埋もれて毎日仕事をしているのだから、どこぞの大手採用会社のように分析、データ化したら価値があるのではないかと考える人もいるのだが、実際現場で働いていると感じることは「人はみなそれぞれであり、方程式はない」ということだ。
とある履歴書を見ながら「この人、この世代なので、〇〇なんですかね・・・」とつぶやいた私にベテランの調査員は一言。「関係ない。」
下手に世代と結びつけて人を解釈しようとすると間違う。特に一人ひとりの調査という仕事をしている立場の人間としては思い込みは敵だが、長年の勘がものをいうこともある。もっと体系的に物事を考えることができれば楽なのに・・・そう一筋縄ではいかないものなのであろう。
入社後せめて3年はいないと次の転職に不利になるーーー
この理由が転職を留まらせる理由の上位であるそうだが、「そろそろ転職も当たり前の世の中だからそんなことはないだろう」と世の中や面接官側の思考を気にして転職を考えるのであれば、転職は辞めた方がいい。履歴書をみて「そういう世代だから」と言われる温床を自ら作りかねない。