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戸籍制度の改変について

コラム 2022/05/16

 戸籍について考えるタイミングは人生に何回くらいあるだろうか。
大抵の人は結婚、親や親戚の死去に伴う相続の際くらいであろう。そのため、ほとんど関係がないと思う場合もあれば誰でも必ず人生で関わりのある事項ということもできる。
 調査業という仕事はかつて、戸籍と深い関係のある職業であった。というより武家社会が確立されて以降の日本社会では「戸籍」=「個人を証明するもの」であり、今で言う運転免許証のようなものであった。今、スポーツジムひとつ通うにも、保険の契約をするにも、賃貸物件に入居するにも運転免許証もしくは保険証なしには進めることが出来ない。

 昨今、大前研一氏が戸籍を見直すべきとの発信をしている。
https://www.news-postseven.com/archives/20220514_1749887.html?DETAIL
※2022/5/14 NEWSポストセブン

どのような文脈でかというと、少子化問題の要因を語る上で、その一つに戸籍があることを挙げ、少子化解消のためには現在の戸籍制度を見直すべきという内容である。
そもそも子どもの数が減少している要因として

・晩婚化による高齢出産のリスク
・結婚してから子どもを生むという常識
・婚外子はかわいそうという社会通念

などがあり、3つ目の「婚外子はかわいそう」という点に関して、何が可哀想なのかというと「戸籍に入れてもらえなくてかわいそう」というのである。この点、個人的には首をかしげてしまった。
「婚外子はかわいそう」ということ自体は、たしかにその通りと頷ける感情的部分はあり、シングルマザーに代表される経済的困窮、子育て支援を得られないなどといった困難な生活環境が想定される。大前氏にかぎらず、少子化を解消するために婚外子を推奨(経済的補助やその他優遇措置)するような社会になれば、結婚にとらわれずに子育てが出来、その結果出生率も回復するということは一部で盛んに言われていることである。しかし一体何人の方が「戸籍に入れてもらえなくてかわいそう」と思ったであろうか。何らかの事情により結婚をせずに出産考える女性のうち何人が戸籍の問題を考えて二の足を踏むであろうか。ご存知の通り結婚していない親から生まれた子どもは母親の戸籍に入る。そのため大前氏のいう「戸籍に入れてもらえない」というのはおそらく父・母両方の戸籍に入ることはできないことや、配偶者が外国籍であった場合に配偶者欄が空欄となることを指していると思われる。

 時々、思うのである。何もかもを一緒くたにした議論が多いと。それは個人的な浅学によるものかもしれないが、なにか物事の要因を自分の感性、語りたいゴールに合わせて誘導することには十分注意を払わなければならない。昔からある制度というものを弊害や悪い慣習であるとの意見はすんなり通り、それがこれまで長く存続してきた意味を考えないということはないか。大前氏の議論には戸籍制度が担ってきた社会構造の基盤や、個人を証明するものとしての役割自体の考察には言及がない。なにも武家社会の年貢制度から話をしろということではなく、現代において戸籍の果たす役割への言及がなくして、戸籍制度の改変は困難であると考える。
 戸籍公開の原則は近年、崩れたが、そもそもそうまでして脈々と続いてきた戸籍という制度について改めて考えたいと思う。

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