採用調査は差別的か？
「伏見憲明」という名前を知ったのは、大学三年のとき。
本屋のアルバイトで社会学の棚を担当していた社員さんと仲良くなり、社会学の本を手に取り始めたころで、４冊目くらいでこの方の著作に行き着いた。「ゲイという経験」というなかなか衝撃的なタイトルと、持ち運びには適さない分厚い幅の本。ところどころに写真があるが、とても喫茶店で広げて読めるような類のものではない。知らない世界への入り口だったその本は、未知への好奇心と、無知であったことへの恥ずかしさと、無神経な人間になることへの恐れとで時を忘れて読んだものだった。
「アウティング」という言葉を知ったのはそこからもう少し後だった。
最近もニュースで就職の際に人事担当者だけに告げていた同性愛者であることを会社の朝礼でバラされたというニュースが載っていた。
https://news.yahoo.co.jp/articles/ede96c28ae166d03daeec93a1c8a6341b872bcf6（2023.10.31 47NEWS)
本人は退職せざるを得ない状況に追い込まれ、上司は降格処分となったという。
＜採用調査は差別か？＞
弊社が行う採用調査という仕事は、どこか「差別意識を助長する」ものと思われていることがある。
調査や情報自体に差別的色合いはなくとも、それを受け取った人が色々な味付けをしたり色付けをしたりして報告したり、選別したりすることにより差別は生まれる。だからその元になる情報は何も与えないほうがいいという考え方から、過去は一切調べない。今が全て。という考え方になるのだと思われる。
・この人は今女性だが、過去は男性だった
ということが調査の途中でわかった場合、報告はするのかしないのか。
・この人は前職で横領を働き懲戒解雇になっている人である
ということが調査でわかった場合、報告するのかしないのか。
というのは同じ俎上に乗せる議論ではない。
弊社が行う採用調査に関して言えば「この人は男性か女性か」を調べることは採用調査ではないし、もしそのような目的で調査依頼がきてもお受けできないだろう。反面、応募者が提出した履歴書・職務経歴書といった書類に詐称がないかを調べることは採用調査である。調査を「差別を助長する」と捉える人はおそらく、採用調査ではないものを捉えてそう言っている場合がほとんどであると思われる。
＜会社は差別的か？＞
昔ほど、最近の職場は家族と会社が密接ではなくなった現在、会社というものをどのように考えるのか。こちらに関しては、そもそも考え方というよりいろんなパターンの会社があり、例えば大別して以下のように分けられるかと思われる。
・仕事は決められた労働に対してお金をもらう仕組み、と割り切り、会社はその仕事を与える機関だというもの
・仕事と私生活は切り離せないので、育休や介護休暇のように家庭と密接につながる制度を考えて構築しているもの
あなたはどちらの考え方で、どちらの職場に就職したいと考えているのか？
・仕事は決められた労働に対してお金をもらう仕組み、と割り切る考えの人が選ぶ職場。またそういう人を労働者として想定した職場。
・長く働いてもらうために家庭状況も考慮しながら相互扶助の関係で成り立つよう設計された職場。またそういう働き方を想定した人を募集している職場。
この両方を兼ね備えた１つの会社というのは矛盾するので存在しないことはわかる。中にはそれぞれの機能をもたせた会社複数を一つのホールディングスとして、状況に併せてホールディングス内で人の異動をさせる企業もある。働く側も、雇用する側も、自分たちがどういう会社であり、また何を目指しているのかをちゃんと把握した上で就職なり、採用なりしていかなければならないのではないか。よく「採用のミスマッチ」というが、それはそれぞれに自覚が足らないために起こることも多い気がする。採用した人が会社の都合に合わせて変幻自在に対応してくれることなど無いように、入社した先が自分の状況や都合に併せて変幻自在に適応してくれることも無い。そのあたりの自覚や、選別ができてくれば、今諸々職場で起きているトラブルも整理されようものと感じている。
採用調査（バックグラウンドチェック）の㈱企業サービス
