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ハードボイルドには要注意

コラム 2023/02/20

 人はどちらかを好んでいると、好んだものを支持する情報を探し、それに相反する情報を見ようとしない。
『ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代』アダムグラント著、楠木建翻訳
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4837957684/allreviews-kusunokiken-22/ref=nosim/

 最近、知り合いの経営者の話を理解するために、色々な書籍を読み漁っている中で上記の言葉にぶつかった。ああ・・・思い当たることが多すぎて頭が痛いというか胸が苦しいというか・・・。比較的暇さえあれば本をめくってしまう傾向がある私は、読んでいてものすごく納得したり、何かを発見した気がする文章に出会うことが喜びの一つだが、その喜びを感じた内容を改めて思い返してみると「言い当ててくれた」と感じる部分が大きいように思う。これまで言葉に出来ずに何となく思っていたことをずばり表現してくれたものを見つけると、ずっと探していたものを見つけた気がして嬉しくなるのだ。これって、本の中に「好んだものを支持する情報を探し」ていて見つけたということではないだろうか。そしてそれを「正解を見つけた」と思い始めると、それは危険な兆候。更に考えは凝り固まっていく。

会社の業績が低迷すればするほど、CEOたちは同じような視点をもつ友人や同僚からのアドバイスを求める傾向があった。

上記も同じ書籍の中での言葉だ。まさに凝り固まった結果の最悪の状況。傷の舐め合いをして会社が潰れていく。・・・自戒しなければ、と改めて胸に刻む。

 ただ、人は言い当てられることが好きな生き物であるとも思う。
村上春樹が圧倒的に若者から指示された理由の一つに「主人公が自分を語らない」という新しいハードボイルド像があったと言われる。自分で自分のことを「僕(私)って実はこういうところがあってね・・・」と語るのはなんとなくかっこ悪い。そうではなく

「あなたってこういう人よね」
「さあ、わからない」

という会話のかっこよさよ。自分のことなのに、そんなことに興味はないのさとばかりに「さあ・・・」と視線を遠くに投げつつ呟く。当然その返答を私の横にいて聞く人は、そんなミステリアスなあなたに夢中である。

ただ残念なことに現実世界では、そんなハードボイルド像に憧れて自分をアピールしなくなっても誰かが代わりにあなたのことを語ってくれるわけではない。かっこ悪くとも、理解してほしければ必死にアピールせねばならんのだ。ではどうすれば黙っていても相手が興味を持ってくれるのか。

 例えばこういうのはどうだろう。

 人は言い当てられるのが好きなのであれば、自分が言い当てる側になれば、言い当てて欲しい人が列をなして集まってくるのではないか。私ってどういう人ですか?僕はどう思われているのでしょう?それに対して「あなたってこういう人よね」と答えていく・・・。占い師にでもなろうか。会社のコンサルティングをするという人たちに頼りたくなる社長の心理も似たようなものなのだろうか。

 誰かに言い当ててほしいという心理の片隅にはいつも、孤独との戦いがある。その孤独を癒やしてほしいと思うと同じような思考回路、自分を理解してくれる周囲の人たち、自分の心情を言い当ててくれる言説に寄っていってしまう。

 この空虚さはアルコールでは癒せなかった。何ものにもよっても癒せなかった。

 誰も、何も頼まないかたくなな心だけが拠り所だった。

ハードボイルドの大御所、レイモンド・チャンドラー小説での一節である。色々と理屈をこねる前に行動あるのみ。そして孤独に負けないように。

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